試験設備保守・運用エンジニアとは?未経験から目指す仕事内容・年収・キャリアパス

記事のまとめ
  • 試験設備保守・運用エンジニアとは
    • ロケットや衛星が宇宙へ行く前に、過酷な環境に耐えられるかをチェックするための「宇宙開発の専属トレーナー兼トレーニングジムの管理者」です。
  • 試験設備保守・運用エンジニアの主な業務は
    • 振動台や真空チャンバーなどの試験設備を適切に動かして実験を行い、機器のメンテナンスや安全管理、データの整理を行うことです。
  • 試験設備保守・運用エンジニアに向いている人は
    • 機械をいじったり、実験装置を操作したりするのが好きな人
    • 「安全第一」を徹底し、決められた手順をきっちり守れる几帳面な人
    • 最前線で目立つよりも、開発チーム全体を技術と設備で支えたい人
目次
宇宙機は一度打ち上げたら修理ができません。そのため、地上で「発射時の激しい振動」や「宇宙空間の真空・極端な温度」を再現し、壊れないか徹底的にテスト(環境試験)を行います。 試験設備保守・運用エンジニアは、こうしたテストを行うための巨大な実験施設(真空チャンバーや振動試験機など)を管理・操作する仕事です。

単に機械のスイッチを押すだけではありません。設計エンジニア(開発担当者)からの「こういう条件でテストしたい」という要望を受け、「どうすればその環境を再現できるか」を検討し、設備をセットアップし、安全に試験を実施します。また、設備が故障しないように日々のメンテナンスを行うことも重要な任務です。
地上の仕事で例えると…
病院でMRIやCTスキャンなどの高度な検査機器を管理・操作し、医師の診断をサポートする「臨床工学技士(ME)」や、自動車メーカーの「テストコース・実験棟の管理スタッフ」のような役割です。

試験設備保守・運用エンジニアの具体的な業務内容

宇宙スキル標準を参考に、このロールが担う業務を紹介します。
  • [構造系の試験]
    • ロケット発射時の激しい揺れや音響に耐えられるかを確認します。巨大な振動台に衛星を固定し、設計通りの振動データを与えて機体の強度をチェックします。
  • [推進系の試験]
    • ロケットエンジンやスラスタ(姿勢制御エンジン)を地上で噴射させる試験です。高圧ガスや危険な燃料を扱うため、厳重な安全管理のもとでバルブ操作や燃焼データの計測を行います。
  • [電気系の試験]
    • 衛星の電源を入れた際に、全ての機器に正しく電気が流れるかを確認します。配線ミスによるショートや、電圧の異常がないかなどを測定器を使って検査します。
  • [通信系の試験]
    • 宇宙と地上の間で正しくデータが送受信できるかを確認します。電波を遮断した部屋(電波暗室)の中で、アンテナの性能や通信機器の動作をテストします。
  • [熱制御系の試験]
    • 宇宙空間の「真空」と「激しい温度差」を再現します。「スペースチャンバー」という巨大な釜に衛星を入れ、空気を抜いて真空にし、極低温から高温まで温度を変化させて耐久性を測ります。
  • [制御系(姿勢・誘導)の試験]
    • 衛星が宇宙で正しい向きを保てるかを確認します。空気の浮力を利用した台の上で衛星を浮かせ、無重力に近い状態で姿勢制御用センサーやタイヤ(ホイール)の動作をテストします。
  • [データ処理系の試験]
    • 搭載コンピュータが大量のデータを正しく処理できるかを確認します。カメラで撮った画像の保存や、地上へのデータ転送処理にエラーが出ないか検証します。
  • [ソフトウェア系の試験]
    • 衛星を動かすプログラムにバグがないかを確認します。実機と試験設備をケーブルで繋ぎ、様々な指令を送って、プログラム通りに機器が反応するかチェックします。

試験設備保守・運用エンジニアの必要なスキルと推奨資格

求められるスキル

宇宙スキル標準では、この職種において専門的な知識からヒューマンスキルまで、多岐にわたる能力が定義されています。 専門用語も多いため、以下のボタン(リンク)からそれぞれの詳しい解説ページを確認してみてください。

スキル一覧

このロールに求められるスキルを一言で表すと、 「多種多様な実験装置を正しく操作して宇宙環境を再現し、IT技術も駆使して実験データを正確に記録・分析して、安全な開発を足元から支える力」 です

転職に有利な「地上の資格・経験」

一部はスキル標準でも参照されていますが、ここでは「標準外」のものも含め、未経験者が転職活動でアピールしやすい資格を参考として紹介します。
  • 高圧ガス製造保安責任者(乙種機械・化学など)
    • 推進系の試験や熱試験(液体窒素使用)では高圧ガスを多用するため、この資格があると設備の管理者として非常に重宝されます。
  • 危険物取扱者(乙種第4類など)
    • ロケット燃料や洗浄溶剤などを扱う際に必須となる国家資格です。製造・試験現場での安全管理能力の証明になります。
  • Pythonなどのプログラミングスキル(または基本情報技術者)
    • 最近の試験設備は自動化が進んでおり、取得した大量の実験データをAIやプログラムで解析するスキル(データサイエンス)があると、現場で高く評価されます。

試験設備保守・運用エンジニアのやりがい・年収

やりがい

試験設備保守・運用エンジニアの仕事には、他では味わえない大きな3つの魅力があります。
  • 「本物」が動き出す瞬間の立会人
    • これから宇宙へ行く実物のフライトモデル(実機)に触れ、エンジンが火を吹く瞬間や、衛星が振動に耐える姿を一番近くで見守ることができる、圧倒的な臨場感があります。
  • ミッションの安全を守る責任感
    • もし試験で不具合を見逃せば、数百億円のプロジェクトが宇宙で失敗します。「地上で出し切る」という覚悟で過酷な試験を完遂し、合格判定が出た時の達成感は格別です。
  • 幅広い技術の習得
    • 機械、電気、熱、化学(燃料)、そしてデータ解析プログラムまで。あらゆる実験設備を扱うため、エンジニアとして非常に幅広い技術と現場対応力が身につきます。

年収

試験設備保守・運用エンジニアは、専門性が求められるため、宇宙業界の中でも安定的であり、資格や手当により高くなる傾向にあります。 特に「高圧ガス」などの独占業務資格を持つ人や、テストデータの自動解析プログラムが書ける人は評価が高く、現場のキーマンとして好待遇が得られます。また、長期間の熱真空試験などでは交代制勤務が発生するため、夜勤手当などで年収が上がるケースも多いです。

※現在の「宇宙スキル標準」において具体的な年収額は公表されていません。詳細な待遇や業務内容は、「宇宙スキル標準」の公表次第、随時追加していきます。

未経験から目指すには

今はまだ宇宙に関する知識も資格もなくて大丈夫です。まずは目の前の経験を活かしながら、段階的にステップアップしていきましょう。
STEP
学習・準備
まずは「計測と安全管理の基礎」に触れることから始めます。 物理実験の基礎(単位、誤差など)を復習し、ExcelやPythonを使ってデータをグラフ化する練習をします。また、危険物や高圧ガスの資格取得に向けた勉強を始めます。

アクション:危険物取扱者(乙4)を取得する、Pythonでデータ分析の基礎を学ぶ、工場の見学に行ってみる。
STEP
仕事にする
「完璧な知識」がなくても、ポータブルスキル(持ち運び可能な能力)を武器に飛び込みます。 自動車部品のテストセンター、化学プラントの設備管理、大学や研究機関の実験補助など、地上で「実験設備」や「インフラ」を扱う現場で経験を積みます。

アクション:環境試験会社(受託試験会社)や、メーカーの実験評価部門に応募する。「安全管理」や「マニュアル作成」の経験をアピールする。
STEP
信頼される
現場で働きながら、必要な知識や資格を身につけていきます。 振動試験機や真空チャンバーの操作方法をマスターし、トラブルが起きた際に「設備の問題か、試験体の問題か」を切り分けられるようになります。

アクション:高圧ガス製造保安責任者を取得する、振動試験の技能講習を受ける、試験手順書の改善提案を行う。
STEP
全体を統括する
将来的には、試験設備の導入計画を立案するマネージャーや、試験全体のスケジュールと安全を管理する「テストコンダクター(実験指揮者)」を目指します。 設計者に対し「今の設備ならこういう試験ができる」「こういう治具を作れば効率が良い」と提案できる、試験のプロフェッショナルへと成長します。

アクション:試験設備の保守責任者になる、複数の試験を束ねるプロジェクト管理を行う。

試験設備保守・運用エンジニアへの転職を成功させるには

宇宙業界の試験設備保守・運用エンジニアに最も必要なのは、「派手な成功よりも、地味な確認作業と安全管理を徹底できる誠実なマインドセット」です。

理系・文系という枠にとらわれる必要はありません。あなたがこれまでのキャリアで培ってきた「ビルメンテナンスでの設備管理経験」や「ITインフラの監視・運用経験」、あるいは「製造現場での安全衛生活動」は、そのまま宇宙ビジネスの現場で求められています。まずは自分の経験の棚卸しから始めてみましょう。
目次